「勤務期間の短い従業員に対しては、職務の価値を反映したその時々の市場価格を踏まえた上で、短期的な貢献・成果を処遇に反映すべきである。
長期勤続の従業員については、一般職層の間は、職務の差異に応じつつ、職能給管理で運用し、管理・専門職層は職務の価値に即した貢献・成果を基本とする。 生産職においては、技能・技術の向上・伝承の観点から熟練の形成を重視した処遇という観点も大切であろう」。
これは、90年代の半ばから日経連が主張してきた「ラッパ型賃金」の再強調であり、特に目新しい内容が付加されているべきだろう。 いま詳しく論じるスペースがないが、賃金体系の動向がジグザグの歩みをたどるのは当然である。
職能給・職務給・成果賃金などのどれが強調されているかも大切だが、重視すべきは「大勢」である。 「管理の個別化」と一体の関係で「賃金管理(賃金決定)の個別化」が確実に進行しているこれが大勢である。
これを要約すれば、財界・資本による「産業別賃金決定の企業レベルへの個別化」「企業別賃金決定の事業所(セクション)レベルへの個別化」「賃金決定の《個人別化》年功賃金の否定」という関連になろう。 詳述できないが、これは賃金決定の「バラバラ化」だから「春闘解体」の論理でもある。
「報告」は「人間の顔をした市場経済」などといいながら、「人間の顔」とは無縁の、弱肉強食の「市場経済」・「競争原理」を経済の領域にとどまらず、社会のすみずみにまで徹底させようとしている。 そのための条件整備を至急やれと「報告」は政府に注文している。

とりわけ、次の事項の「規制緩和」(最近その推進勢力は「規制改革」と言い換えている)が強調されている。 人材派遣事業、民間職業紹介事業、雇用契約期間、裁量労働制などがそれだが、「解雇制限規定の設定や整理解一展の要件の法制化」には強く反対し、産業別最低賃金の廃止を主張している。
さらに、「教育改革の方向に強い関心を寄せるべきである」として、資本の立場から教育・大学の一連の改悪策動を煽っている。 まさしく社会のすみずみにまで「競争原理を」というわけだ。
その行き過ぎや、表面化した矛盾等を意識してか、「報告」は「実行を誤ると従業員のモラールを低下させ、企業経営に必要な(人的)資源までも喪失する恐れがある」とも述べている30ページ)。 だが、リストラ、賃下げの横行など「競争原理の徹底」がもたらした矛盾はそれ以上に大きい。
02年1月17日発表の内閣府と経済産業省の外郭団体(日本リサーチ総合研究所)の調査結果によると、今後1年間の自分または家族の収入に関して「減る」と回答した比率が43・9%に上り、自分や家族が失業する不安を訴えた回答が71・6%ときわめて高い水準にある、という。 これらの指標が、その矛盾の大きさを示している。
2002年5月、日経連と経団連が合体し、「日本経団連」となった。 この日本経団連(以下、経団連と記す)が「初春闘」に臨んでいる。
「報告」の名称も「経営労働政策委員会報告」と改められた第一に、「賃下げ春闘」をねらっている。 春闘を「春討」にすべし、とうそぶく。
マスコミを手下に「言いたい放題」である。 春闘を「財界戦略の宣伝の場」として利用したいという魂胆が丸見えだ。
「こんな時期に賃上げを要求するのは非国民だ」といわんばかりである。 労働組合・労働者は、こうした財界・マスコミ一体のマインドコントロールを断固はねかえさなくてはならない。
第2に、消費税の大幅引き上げを公言している。 04年から毎年1%ずつ上げ、14年に16%にするこれが最有力案だ。

「社会保障改革」なる錦の御旗をかかげ、労働者・国民を欺きつつ、消費税の3倍強増をたくらんでいる。 はからずも、労働者・国民が共同して03春闘をたたかいうる格好の条件をつくってくれた。
この側面も見逃してはならない。 第3に、これらを国・政府に忠実に実施させるため、つまり財界の政治への影響力を一段と強めるために、02年末、経団連は「政治献金の斡旋再開の方針」を決めた。
政党や政治家の政策を評価する指針を経団連がつくり、財界の方針・野望に忠実な政党や派閥・政治家に多額のカネをばら撒く、という露骨な内容である。 これは財界が国の政策を買い上げることを意味する。
たとえば消費税大幅アップに熱心な政党・派閥・政治家にどんどん政治資金をくれてやるこういうことを財界は今後おおっぴらにやりたいのだ。 これを許したら民主主義が死滅する。
この国は地獄と化す。 ほかにも、いろいろある。
その一つが、ここで岨上にのぼす経団連「経営労働政策委員会報告」(以下、「報告」と略記)の発行である(02年2月17日付)。 これは、従来の日経連「労働問題研究委員会報告」(「労問研報告」)を継承したものである。
O経団連会長は、「経営と人」に関する日本経団連の基本的な政策を毎年、世に問うこととした、という(「報告」の序文)。 これにとどまらず「報告」は、教育や社会保障などの問題にも言及し、消費税引き上げ方針もあらわにしている。
サブタイトルだけは「多様な価値観を生むダイナミズムと創造をめざして」と一告」以下、このような経団連「報告」をみていく。 まずそれぞれの章の要約(公正を期して経団連の元日付「経営タイムス」による要約)を示したあと、遠慮会釈なく検討・批判をくわえる。

春闘に直結した章を批判の重点対象とする。 長期にわたって低迷を続けるわが国経済は、金融再生・産業再生の正念場を迎えている。
不良債権処理の加速に加え、産業再編の促進、資産デフレの解消、需要創出、倒産や雇用情勢の悪化に伴う社会的不安を回避するためのセーフティネット(安全網)の整備等に、考えうるあらゆる政策を動員し、官民あげて全力を傾注することで、一刻も早く経済再生の道筋をつけ、内需主導による経済活性化につなげていかなければならない。 不良債権処理の加速やデフレの進行によって危倶されるのは、雇用情勢の一段の悪化である。
雇用不安が蔓延すれば、景気は一段と落ち込み、デフレ・スパイラルに陥りかねない。 雇用対策は、短期当面の対処のみならず、中長期的な視点にも立って講じられなければならない。
消費不振の大きな要因になっている国民の老後生活の不安を解消するためには、社会保障制度の将来像を明示することが重要である。 われわれは、日本の21世紀は「多様な価値観が生むダイナミズムと創造」によって切り拓かれると考える。
その土台には、国内においては国民や企業の間に、相互の立場や考え方の違いを理解し、尊重する「共感と信頼」が築かれていなければならない。 この経団連自身の「要約」を、読者はどう解釈されたか。
ここは「序文」である。 つづく各章をにらんで周到な「伏線」が張られている。
中心は3点だ。 第一に、「雇用が危ない」とわめきたて、賃下げに道を開く伏線となっている。
「単純な賃下げ」の伏線にとどまらない。 正規雇用を非正規雇用に追いやり、これでゴッソリ人件費を減らす「日本型ワークシェアリング」(ワークシェアリング)の伏線となっている。

要約中、「雇用対策」の「短期当面の対処」とあるが、これは経団連のいう「緊急避難措置としてのワークシェアリング」をさす。

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